騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍
「アーネスト様……!」

 現れた人物に、エルシーは目を見開く。アーネストはジェラルドに一礼すると、床に座り込んで身を小さくしているエルシーのもとへ駆け寄った。そして片膝をつき、エルシーの状態を素早く目で確認する。

「大丈夫か? 縛られてはいないようだが」

「当たり前だ。君は私を一体どんな男だと思っている?」

 アーネストの問いに即答したのは、エルシーではなくジェラルドだった。まるで、アーネストの来訪を予感していたように、突然の入室に憤る様子はなく、むしろ笑みを浮かべている。社交界ではあまたの令嬢および貴婦人を魅了してきたジェラルドの微笑みだが、当然ながら男であるアーネストの心に響くはずはなかった。

「陛下、これはいかなる処遇でしょうか?」

 スッと立ち上がり、ジェラルドを見据えて尋ねる。口調は丁寧だが、明らかに無礼を越えた態度に、エルシーも傍にいた従者たちもヒヤリとしたが、ジェラルドは気にする様子もなく穏やかな表情を保ったままだ。

「処遇とは、失敬だな」

 ジェラルドは侍従を全て下がらせると、おもむろに腰を浮かせ、アーネストとエルシーのもとまで歩み寄ってきた。

「ただ、妹を救った侍女をもてなしたかっただけだよ。ほら、彼女のティーカップもちゃんと置いてあるだろう?」

「あなた様からお誘いを受けて、呑気にのこのこと同席できる侍女など、いるはすがないでしょう。ましてや職務中です」

「まあまあ、そんなに怒らないでくれ。私はこの国の王だが、騎士のはしくれでもある。か弱い女性は尊び、守る対象だという精神は忘れていない。ましてや、君の大事な婚約者に何かしようなどと思うはずがない」

「いいえ、私は怒っているのではなく陛下のお戯れに呆れているのです」
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