騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍
 旧知の仲であるふたりにとって、この手のやり取りは日常茶飯事だ。しかし、それを知らないエルシーは、自分を守ろうとしてアーネストが国王陛下に楯突いているのでは、と先ほどから冷や汗が止まらない。

「さて、騎士団長も来たことだし、話を前に進めよう。エルシー・ウェントワース、なぜ、馬車が危険だとわかったんだい?」

 ジェラルドは今度はエルシーへと視線を向けた。畏怖を抱かせないよう、優しい口調ではあるが、エルシーの緊張状態はまだ続いている。

「それは……」

 エルシーは返答に詰まった。正直に答えようものなら、きっと気味悪がられるに決まっている。この力はアーネストも知らない事実だ。知られれば婚約者破棄されても仕方ないが、それは自分のせいでルークの未来が閉ざされることを意味する。

(……でも、ずっと黙っているのも卑怯だわ……。ちゃんと近いうちに、アーネスト様に話さなきゃ……)

「勘、でございます……」

 罪悪感にかられながらも、今のエルシーにはそう答えるのがやっとだった。

「……勘、か」

 しかし、ジェラルドは彼女から視線を外さない。

「先日、君の母君の宝石が使用人に盗まれるという事件が起きたね?」

「は、はい……」

 唐突な質問にエルシーは一瞬戸惑う。国王がなぜ侍女の身に起きた事件を気にかけるのか。

「取り調べた際の、その使用人の供述を君は知っているか?」

「陛下」

 エルシーが返答する前に割って入ったのは、アーネストだ。

「恐れながら、それは彼女には身に覚えのないことでございます」

「なぜそう言い切れる? 自分の婚約者を守りたい気持ちはわかるが、公私はわけるべきだ、騎士団長」

 何やら険悪な雰囲気がふたりの間に漂い始めた、その時。

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