【電子書籍化】騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍
 エルシーは焦ったが、たかだか侍女である自分を心配して涙を流すグローリアの優しさに、胸の内が温かくなるのを感じた。この可愛くて愛しい主を安心させようと、控えめにその背中に手を回す。

「グローリア様、陛下のおっしゃったことは本当でございます。私は大丈夫ですので、どうかご安心なさってください」

 とんとん、と赤子をあやすように背中をさすれば、グローリアは徐々に落ち着きを取り戻していった。

「……可愛い妹に免じて、今回私は介入しないことにしよう。さっきの話の続きは君がちゃんと彼女に話してやれ、アーネスト。婚約者として、君も少なからず気になっているはずだ」

「……御意」

「さて、グローリア、ノックもなしに突入してきたことといい、そのあとの取り乱しようといい、まもなく輿入れして王太子妃となる者としてあるまじき行為だったね。まだまだ言い聞かせることは多そうだ」

「ま、待って、お兄様、どうかお母様のお耳には入れないで……! というか、誰が誰の婚約者ですって⁉ え、まさか、ふたりがそうなの⁉」

「ほら、突然大声を出すのもダメだ」

 強制的にソファに座らされるグローリアを見て、これは長くなりそうだな、とアーネストは少し同情を覚えたが、黙って一礼するとエルシーの腕を引いて退室した。
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