【電子書籍化】騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍
 次にエルシーが連れて行かれた場所は、騎士団長専用の私室だった。右には先日訪れた執務室があり、左は簡易的な寝室となっている。基本は屋敷からここへ通っているが、職務が忙しい時は泊まり込むこともあるという。

「陛下は介入しないとおっしゃったが、決して君への疑いは消していないだろう」

 アーネストはエルシーに椅子を勧めると、自分も向かいに腰掛けて早速本題に入った。

「はい……」

 エルシーも静かに頷く。ここに来るまでの間、ふたりとも無言だった。そのおかげか、エルシーも自分の置かれている状況を落ち着いて整理することができた。おそらくジェラルドは、エルシーが〝声を聞く力〟を持っているのではと疑っている。しかし、母の宝石が盗まれた事件に言及されたのは、一体どういうことなのか。

「陛下は先ほど、先日の事件のことをお尋ねになりました。犯人の供述……ロブは何を話したのでしょう?」

「ああ……実は」

 アーネストは少し言いにくそうに重い口を開いた。

「取り調べでわかったことだが、ロブの生き別れた娘が病にかかって、至急治療代を工面しなくてはならなくなり悩んでいた。我々も当初、宝石を盗み出した理由はそれだと思ったが、実は違っていた。ロブは莫大な報酬と引き換えに、誰かに宝石を盗めとそそのかされたらしい」

「その誰かって……?」
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