【電子書籍化】騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍
「全く知らない男だそうだ。行き詰っていたロブはその話に飛びついたが、その怪しい人物は最後におかしなことを呟いたらしい。……これで、あの令嬢の力が本物かどうか確かめることができるだろう、と。ロブは何のことかわからず、気にも留めていなかったらしい。そうしてロブは犯行を終え、その人物と落ち合う約束の場で待っていたが、結局、男は現れなかった。その男にとって、宝石などどうでもよかったんだ。知りたかったのは、ロブがどうやって捕まるか、だ。だからあえて姿を見せず、ロブを野放しにしていた」

 エルシーはアーネストの話に聞き入り、じっと彼の目を見た。

「あの令嬢、というのは、おそらく君のことだ、エルシー。真犯人は君の力の有無を確かめたかったが、実際にロブを捕まえたのは第二騎士団の尽力による。それだけなら、ロブのたわごととして処理されたはずだった。しかし、今日、君が王女殿下の危険を示唆する行動を取ったことで、陛下としてもロブの供述を軽視できなくなった」

「……そうですか」

 エルシーは膝の上でぎゅっと手を握りしめながら、腹を括った。王女の危機を回避できたのは本望だが、騒ぎを大きくしてしまった責任は取らなくてはいけない。ここは取調室ではないが、尋問されていることにかわりはない。

 アーネストにも察しがついているかもしれないが、自分の口から真実を告げたら、彼はどんな顔をするだろうか。

 父のように、険しい顔をしてーー自分を遠ざけてしまうだろうか。


「……私は子供の頃、〝声なき者の声〟を聞く力がありました。世間では、忌み嫌われている力です」

 それでも、勇気を振り絞って、言葉を紡ぐ。
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