【電子書籍化】騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍
「えっ!?」

勢いよく顔を上げれば、アーネストと視線が交わる。

「知っていた、と言うのは誤りだな。昔、君の家を訪問した際、庭でひとりで誰かと話している幼い君を見て、そうじゃないかと感じていた。それはタブーと見なされる力だから、真偽を尋ねることはできなかったが。でも、俺はそんな君が少し羨ましかった」

(アーネスト様に見られていたなんて……! だけど、この力が羨ましいって、なぜ……?)

驚きの連続で、エルシーは瞬きすら忘れてしまう。

「はるか昔、その力で民を煽動して、王政を脅かしかねない勢力があった。陛下は個人的に君を危険視しているわけではないと思うが、王女殿下の輿入れも近いし、ご自身の婚礼も控えているとあって、少し敏感になっていらっしゃるんだろう。君がロブの供述に出てきた人物と繋がりがないことを、確かめたかったんだ」

「も、もちろんです、私、そんな人、知りません! この力を知っていたのは両親だけですし。ウェントワース侯爵家の名誉のためにも、両親が誰かに話すとは考えられません」

「そうだろうな。……ともかく、陛下には俺から、エルシーは何も関わりはない、と報告しておく」

「はい、よろしくお願いします……」

(誰かが私の力を欲している。でも何のために--)

得体の知れない不安を感じていたせいだろう、エルシーがよろよろと立ち上がると、いつの間にかアーネストが傍に来ていて、身体を支えられる。

「大丈夫か? 今日はもう休んだらどうだ」

「いいえ、グローリア様のご様子も気になりますし。あのあと、陛下に窘められて、落ち込んでいらっしゃらなければいいんですけど」

「こんな時まで主の心配とは、君の侍女気質は見上げたものだ」

アーネストが少し表情を和らげる。それにつられてエルシーも微笑んだが、やはり先ほどから抱く不安は簡単に消えそうもなかった。
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