【電子書籍化】騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍
美しく整えられた庭園と晴れ渡った濃紺の夜空を眺めながら、二、三度深呼吸し、エルシーはそっと瞳を閉じた。
宮廷楽士たちが奏でる音楽が遠くから耳に届く以外は、とても静かな夜だ。例の声も聞こえてこない。それはそれで安心なのだが、完全に消えてなくなったわけでもない。しかしここ最近は、以前ほど強い拒絶反応を示していない自分がいる。この能力を知っても、顔色ひとつ変えず受け入れてくれたアーネストの存在が大きいからだろう。
先日の事件に裏があったと聞かされた時からしばらくは不安が常に付きまとっていたが、今のところ身辺には何も起こらず、これまで通り穏やかな日々を送っている。だが完全に安心するのは禁物だ。
そろそろ戻ろうと、エルシーが踵を返した時、回廊の角から早足で向かってくる黄色いドレス姿の女性が視界に入った。時折、庭に目を向けて何かを探しているような素振りを見せたが、その女性もエルシーを発見すると、小走りに駆け寄ってきた。
「あの、こちらに誰か来ませんでしたか? 茶色の髪に茶色の瞳をした、高身長の男性なんですけど」
女性は目を見開いて真剣な面持ちで尋ねてきた。
「いいえ、見ませんでしたけど……」
「そうですか、ありがとうございます」
礼を述べつつ、一体どこに行ったのかしら、と女性は呟きながらその場をあとにする。家族か恋人でも探しているのだろうか。再び回廊の角に消えていく女性の姿を、エルシーが何げなく目で追っていた時、庭の方から、ガサガサッと葉を掻き分ける音が聞こえてきた。
不意を突かれて思わずビクリと身体が固まってしまう。音の方へと視線を集中させていると、突然、垣根の中から黒い影が現れた。
「きゃ……っ!」
小さな叫び声を上げたエルシーだったが、足を踏ん張らせてその場で尻もちをつくという醜態はなんとか回避できた。しかし、驚きで自分の心臓がバクバクと激しく脈打っているのが伝わってくる。
すると、エルシーが逃げ出すよりも早く、その人影は近づいてきた。
宮廷楽士たちが奏でる音楽が遠くから耳に届く以外は、とても静かな夜だ。例の声も聞こえてこない。それはそれで安心なのだが、完全に消えてなくなったわけでもない。しかしここ最近は、以前ほど強い拒絶反応を示していない自分がいる。この能力を知っても、顔色ひとつ変えず受け入れてくれたアーネストの存在が大きいからだろう。
先日の事件に裏があったと聞かされた時からしばらくは不安が常に付きまとっていたが、今のところ身辺には何も起こらず、これまで通り穏やかな日々を送っている。だが完全に安心するのは禁物だ。
そろそろ戻ろうと、エルシーが踵を返した時、回廊の角から早足で向かってくる黄色いドレス姿の女性が視界に入った。時折、庭に目を向けて何かを探しているような素振りを見せたが、その女性もエルシーを発見すると、小走りに駆け寄ってきた。
「あの、こちらに誰か来ませんでしたか? 茶色の髪に茶色の瞳をした、高身長の男性なんですけど」
女性は目を見開いて真剣な面持ちで尋ねてきた。
「いいえ、見ませんでしたけど……」
「そうですか、ありがとうございます」
礼を述べつつ、一体どこに行ったのかしら、と女性は呟きながらその場をあとにする。家族か恋人でも探しているのだろうか。再び回廊の角に消えていく女性の姿を、エルシーが何げなく目で追っていた時、庭の方から、ガサガサッと葉を掻き分ける音が聞こえてきた。
不意を突かれて思わずビクリと身体が固まってしまう。音の方へと視線を集中させていると、突然、垣根の中から黒い影が現れた。
「きゃ……っ!」
小さな叫び声を上げたエルシーだったが、足を踏ん張らせてその場で尻もちをつくという醜態はなんとか回避できた。しかし、驚きで自分の心臓がバクバクと激しく脈打っているのが伝わってくる。
すると、エルシーが逃げ出すよりも早く、その人影は近づいてきた。