騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍
「ごめん、怖がらせてしまったかな」
若い男性の声だ。思ったより穏やかで紳士的な声音に、エルシーの警戒心がほんのわずかだけ解かれる。服についた葉を払いながらエルシーのもとへと歩み寄ってくる男性の全貌が、回廊の灯りによって明らかとなった。
背は高く細身で、茶色の髪。同系色の瞳はやや垂れ目だが、割と整った顔立ちの優男だ。きちんとした夜会服を身に着けており、今宵の招待客であることは一目瞭然。しかし、どこぞの貴族がなぜ庭に身を潜めていたのか。
エルシーはふと、先ほどの女性が探していた人物と目の前の男性の特徴が一致していることに気づいた。
(隠れていた、ってことは、何かそうせざるを得ない状況だったのね。この人、さっきの女性に顔を合わせられないんだわ)
彼らふたりの歳も近そうで、この場合、たいていは男女の色恋沙汰のもつれだと相場は決まっている。物腰は柔らかく親しみやすそうな青年だが、見方によっては軽薄とも取れる。エルシーは呆れて、さっさとここから離れる決断を下した。
「では、私はこれで」
一応、失礼にあたらないよう丁寧にお辞儀をし、身体の向きをかえる。しかし、そんなエルシーの前に青年が素早く進み出た。
「ああ、まだ行かないで。礼をさせてほしい。君が匿ってくれたおかげで助かったよ」
「状況から見て、貴方が先にお隠れになったあと、私はここに来ました。あの女性にはありのままをお伝えしただけですし、貴方にお礼を言っていただくようなことではありません」
「なんであれ、君が僕を救ってくれたことには変わりないよ。世話になった女性に何もしないなんて、僕の信条に反する。後日礼をさせてくれ。君の名前を伺ってもいいかな?」
若い男性の声だ。思ったより穏やかで紳士的な声音に、エルシーの警戒心がほんのわずかだけ解かれる。服についた葉を払いながらエルシーのもとへと歩み寄ってくる男性の全貌が、回廊の灯りによって明らかとなった。
背は高く細身で、茶色の髪。同系色の瞳はやや垂れ目だが、割と整った顔立ちの優男だ。きちんとした夜会服を身に着けており、今宵の招待客であることは一目瞭然。しかし、どこぞの貴族がなぜ庭に身を潜めていたのか。
エルシーはふと、先ほどの女性が探していた人物と目の前の男性の特徴が一致していることに気づいた。
(隠れていた、ってことは、何かそうせざるを得ない状況だったのね。この人、さっきの女性に顔を合わせられないんだわ)
彼らふたりの歳も近そうで、この場合、たいていは男女の色恋沙汰のもつれだと相場は決まっている。物腰は柔らかく親しみやすそうな青年だが、見方によっては軽薄とも取れる。エルシーは呆れて、さっさとここから離れる決断を下した。
「では、私はこれで」
一応、失礼にあたらないよう丁寧にお辞儀をし、身体の向きをかえる。しかし、そんなエルシーの前に青年が素早く進み出た。
「ああ、まだ行かないで。礼をさせてほしい。君が匿ってくれたおかげで助かったよ」
「状況から見て、貴方が先にお隠れになったあと、私はここに来ました。あの女性にはありのままをお伝えしただけですし、貴方にお礼を言っていただくようなことではありません」
「なんであれ、君が僕を救ってくれたことには変わりないよ。世話になった女性に何もしないなんて、僕の信条に反する。後日礼をさせてくれ。君の名前を伺ってもいいかな?」