騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍
そんな忙しいエルシーの息抜きは、今やきちんと整備された庭の草花の水やりだ。色とりどりの花を眺めていると不思議と心が落ち着く。父が生きていた時と同じようによみがえった庭園を眺めながら、しばし過去の思い出にふける。
まだ自分の能力が異質だなんて考えてもいなかった幼い日。両親に頼んで自分専用の花壇を作ってもらい、花々に水を与えるたびに《アリガトウ》といった声を感じるのが嬉しくて、夢中になっていた。しかし、水量が多かったのか、数日後に花びらがすべて地面に落ちてしまうとい〝惨事〟を引き起こす。もう花たちの声が聞けないのだと、打ちひしがれていた時、突然、花びらが宙に舞い、くるくると風に乗って、空高く飛んでいったのだ。青い空に花びらが吸い込まれていく不思議な光景は、とても美しい絵となって今もエルシーの心の片隅にある。
(こうしてじっくりと思い出す事自体、忘れてしまっていたわ)
エルシーは人知れず微笑み、水やりを終えてから屋敷に戻った。すると、玄関の方から何やら騒がしい気配を感じる。不審に思いながらそちらへ歩を進めると、エルシーの姿を見つけた新顔の侍女が表情を強張らせ、早足で近づいてきた。
「あっ、お嬢様……」
「何かあったの?」
「それが、屋敷の周りをうろついていた不審な男を門番が見つけ、捕らえたとかで……」
〝不審な男〟という響きに、エルシーの身体が固まる。まさか、あの事件の裏にいる人物が、直接エルシーの様子を窺いにきたのだろうか。
「私が行って確認するわ」
エルシーは拳をぎゅっと握りしめて玄関へと向かう。怖い気持ちはもちろんあるが、自分のせいで大切な家族が危険な目にあったら、と思うと恐怖より怒りの方が勝ってくる。ここできちんと対峙して相手の目的を明白にしなくては。
まだ自分の能力が異質だなんて考えてもいなかった幼い日。両親に頼んで自分専用の花壇を作ってもらい、花々に水を与えるたびに《アリガトウ》といった声を感じるのが嬉しくて、夢中になっていた。しかし、水量が多かったのか、数日後に花びらがすべて地面に落ちてしまうとい〝惨事〟を引き起こす。もう花たちの声が聞けないのだと、打ちひしがれていた時、突然、花びらが宙に舞い、くるくると風に乗って、空高く飛んでいったのだ。青い空に花びらが吸い込まれていく不思議な光景は、とても美しい絵となって今もエルシーの心の片隅にある。
(こうしてじっくりと思い出す事自体、忘れてしまっていたわ)
エルシーは人知れず微笑み、水やりを終えてから屋敷に戻った。すると、玄関の方から何やら騒がしい気配を感じる。不審に思いながらそちらへ歩を進めると、エルシーの姿を見つけた新顔の侍女が表情を強張らせ、早足で近づいてきた。
「あっ、お嬢様……」
「何かあったの?」
「それが、屋敷の周りをうろついていた不審な男を門番が見つけ、捕らえたとかで……」
〝不審な男〟という響きに、エルシーの身体が固まる。まさか、あの事件の裏にいる人物が、直接エルシーの様子を窺いにきたのだろうか。
「私が行って確認するわ」
エルシーは拳をぎゅっと握りしめて玄関へと向かう。怖い気持ちはもちろんあるが、自分のせいで大切な家族が危険な目にあったら、と思うと恐怖より怒りの方が勝ってくる。ここできちんと対峙して相手の目的を明白にしなくては。