騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍
「ああ、僕は砂糖多めがいいんだ。ミルクもたっぷり入れてくれ」
応接室のソファにどっしりと構えたヘクターは安心したのか、お茶を運んできた侍女にそう要求した。しかし、正面に座るエルシーにじっと睨まれていることに気づくと、慌てて咳ばらいをし、居住まいを正す。
「しかし、この部屋も見違えるようにキレイになったな」
ヘクターは左右に首を巡らせ、呟いた。確かに、最近まで殺風景だったこの空間も、アーネストのおかげで家具も絵画もそろえられ、貴族の館の応接間としてふさわしくよみがえった。
「そうね、公爵様には本当によくしていただいているわ」
「騎士団長であるセルウィン公爵とエルシーが婚約した、と噂では聞いていたけど、本当だったんだな……チクショウ」
なぜかヘクターは面白くなさそうに口を尖らせたが、エルシーにはその理由がわからなかった。
「ところで、私たちに何か用事でも? あとがないって言っていたけど、私たちに関係があるの?」
エルシーとしてはさっさと本題に入って用件を済ませたい。ダンスレッスンもこのあと控えている。
「あ、ああ……実は、情けない男だと思われるかもしれないが」
「知ってるわ」
「ひどいな!……いや、否定はしないけど」
ヘクターはやや口ごもりながらも、話し始めた。
「僕なりに将来については考えていたんだ。次男だから家の家督は継げないし、だったらいっそ身ひとつで何か大成してやろうと……意気込んで事業に手を出したものの……すべて上手くいかなくて。親に頼み込んで尻ぬぐいはしてもらったけど……繰り返すうちに親父にとうとう勘当を言い渡された」
「まさか……」
エルシーの頭を嫌な予感がよぎる。