騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍
「ちょ、ちょっと、そんな真似やめて」
「いいや、こうでもしないと僕の気持ちはわかってもらえないだろうから」

 エルシーは困惑した。いろいろ納得はいかないが、大の大人の男性の情けない姿はこれ以上見ていられない。

「わかったわ。少し考えさせて」
「本当か? ああ、ありがとう!」

 喜びを露わにしたヘクターは顔を上げると、サッと立ち上がった。調子だけはいいわね、とエルシーは内心ため息をつくと、もう何も意見は述べず連絡先だけを聞いて、彼を帰らせた。




 その日の夜。
 エルシーは家を訪ねてきたアーネストに、昼間のヘクターの来訪と要件を話した。

「オーモンド氏はおそらく長旅は無理でしょうから、こちらから出向かなくてはなりません。でもそれはこちらも同じで母の身体に触るでしょうし……でも母を置いていくのは心もとないので、ルークにはここに残ってもらおうと思います。なので私しか動ける者がおりません」

 アーネストはしばらく考えていたが、彼の口から出た答えは簡潔だった。

「わかった。俺も一緒に行こう」

「えっ、一緒にきていただけるのですか?」

「いくら使用人も連れて行くとはいえ、女性の旅は心細いだろう。今はそんなに忙しくないから、数日休暇も取れる。その人物の住む場所は、ちょうど我がセルウィン公爵領の近くだ。実は暖かくなったら視察も兼ねて訪れたいと思っていたんだ。それに、王都にいない親族にも君を紹介できるいい機会だ」

「親族……?」

「そう言えば詳しく話していなかったな。祖母がそこで悠々自適に暮らしているんだ。……ああ、そこまで緊張する必要はない。そこまでは二、三日かかるから旅行感覚だと思ってくれたらいい」

(旅行……アーネスト様と初めての!)

 その響きが新鮮で、妙にそわそわしてしまう。

「……しかし、君が乗り気でないなら無理には勧めないが」
「いえ、行きます、行きたいです!」

 エルシーが間髪入れずに返答したことにより、オーモンド氏面会の件はあっさり決定事項となった。
 
< 61 / 169 >

この作品をシェア

pagetop