騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍
王都を出て二日目の晴れた昼下がり。エルシーたちを乗せた馬車の一行が、並木の続く街道を緩やかに走っている。
アーネストによると、もうすでにセルウィン公爵領のレストリッジという名の土地に入っているらしい。気候も過ごしやすく大地も肥沃で農作物がよく育つ。その言葉の示す通り、車窓からは緑豊かな畑やどこまでも広がる青い草原を見渡すことができる。
侍女として長く王宮で過ごし、たまの休みには実家に帰るだけを繰り返していたエルシーにとって、旅そのものがとても新鮮で、目に止まる全てに興味を惹かれた。しばらく外の景色を眺めていると、遠くに小さな白い固まりがいくつも見えてきた。
「アーネスト様、あれは羊-―」
問いかけとともに振り返ったエルシーだったが、あとに続く言葉をすばやく飲み込む。
向かい合って座っているアーネストが腕組をしたまま、首を少し前に傾けて目を閉じている。
(普段お忙しくて、とてもお疲れなんだわ)
騎士団の仕事に加え、公爵家当主として領地経営や管理など、アーネストがやるべきことは多い。
それでも一切疲れを見せず、アーネストはこの旅の間もずっとエルシーに親切だった。現に先ほどまではちゃんと起きていて、道中エルシーが興味を惹かれた物や光景について、丁寧に説明してくれていた。しかし彼女がじっと外を見つめ無言でいる間に、つい寝入ってしまったのだろう。