騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍
エルシーは静かに眠るアーネストを見つめた。見慣れた騎士服ではなく、白いシャツと黒のトラウザーズ、黒いブーツという出で立ちだ。長い移動中は窮屈なのか、上質な緑色の上衣とクラバットは身につけず、座席の脇に置かれている。普段は黒い騎士服に覆われて固い印象のアーネストも、こうしていると少し雰囲気が和らいで違う印象を受ける。
(本当にキレイね、顔立ちも、髪も……)
彼の額にかかる髪を払おうと手を伸ばしかけたエルシーは、ハッと我に戻ると慌ててそれを引っ込めた。ほのかに頬が熱を帯び、心臓はうるさく鼓動している。
触れたい、と無意識に手が出た衝動にエルシーは戸惑う。シャツ姿のせいで、いつもは騎士服に覆われている鍛えられた上半身の逞しさを間近に感じ、ますます落ち着かない。さらに『そういえば一度だけあの腕に抱きかかえられたんだったわ』などど勝手に過去の記憶が甦ってしまうのだから、もうどしようもない。
母が倒れ、道を彷徨っていたエルシーを抱きかかえて馬車に乗せてくれた温かい腕。あの時は母のことで必死でアーネストの行動にときめく余裕すらなく、その後も侍女の仕事や結婚準備に忙殺されていた。こうして長い時間ゆっくりと彼と向き合うのは初めてだと、エルシーは改めて思う。
アーネストは相変わらず表情の変化には乏しいが、さりげない気遣いや時折向けられるわずかな微笑みに、エルシーの胸は苦しく甘く締め付けられる。
(最初は家族にとって頼れる存在が欲しいと思っていたけど……私はいつの間にかこの人に惹かれている……)
この感情の正体にはとっくに気づいている。しかし、口に出して伝える勇気がまだ持てなくて、そんな自分がもどかしくて、エルシーは再び窓の外に顔を向けた。
(本当にキレイね、顔立ちも、髪も……)
彼の額にかかる髪を払おうと手を伸ばしかけたエルシーは、ハッと我に戻ると慌ててそれを引っ込めた。ほのかに頬が熱を帯び、心臓はうるさく鼓動している。
触れたい、と無意識に手が出た衝動にエルシーは戸惑う。シャツ姿のせいで、いつもは騎士服に覆われている鍛えられた上半身の逞しさを間近に感じ、ますます落ち着かない。さらに『そういえば一度だけあの腕に抱きかかえられたんだったわ』などど勝手に過去の記憶が甦ってしまうのだから、もうどしようもない。
母が倒れ、道を彷徨っていたエルシーを抱きかかえて馬車に乗せてくれた温かい腕。あの時は母のことで必死でアーネストの行動にときめく余裕すらなく、その後も侍女の仕事や結婚準備に忙殺されていた。こうして長い時間ゆっくりと彼と向き合うのは初めてだと、エルシーは改めて思う。
アーネストは相変わらず表情の変化には乏しいが、さりげない気遣いや時折向けられるわずかな微笑みに、エルシーの胸は苦しく甘く締め付けられる。
(最初は家族にとって頼れる存在が欲しいと思っていたけど……私はいつの間にかこの人に惹かれている……)
この感情の正体にはとっくに気づいている。しかし、口に出して伝える勇気がまだ持てなくて、そんな自分がもどかしくて、エルシーは再び窓の外に顔を向けた。