【電子書籍化】騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍
すると、広大な草原の向こうに、何やら建物のような大きな塊が見えてきた。近づくにつれ、石造りの立派な城館だとわかる。しかも、真っすぐ走っていた馬車が道を逸れ、その城館に向かっているのは明らかだ。
エルシーは目を見開いた。
(まさか……)
「あれが、我が領主館だ」
彼女の心の声が届いたのか、肯定の返答が馬車内に響く。エルシーが振り返ると、いつの間にか起きていたアーネストがシャツの襟を正してクラバットを身につけているところだった。続いて上衣にも素早く袖を通す。
「すまない、少し寝てしまったようだ」
「そんな、お気になさらないでください。私こそ子供みたいにはしゃいでしまって、申し訳ありません」
「いや、君が楽しんでくれていたのなら、俺も嬉しい。それに、誰かの前で眠るなんて初めてかもしれない。物心ついた頃から、隙を与える人間になるな、と祖父や父から言われ続けてきたせいかな」
アーネストは窓の外に視線をやった。彼はセルウィン公爵家の大事な跡取りで、当然その地位に相応しい人間になるべく育てられた。しかし、その教えと重圧が、かえって彼の本来持つ自由な感情表現に制限をかけてきたのかもしれない。そう思うからだろうか、エルシーの目には彼の横顔が少し寂し気に映った。
(……でも、私には少しずつ心を開いてくれてる、ってことかしら)
それが本当なら嬉しいが、ただの自惚れかもしれない。エルシーが何と声をかけていいかわからずにいると、アーネストから気遣わし気な声が発せられた。
「悪い、暗い話に聞こえたな」
「いえ……アーネスト様のことは何でも知りたいと思いますので、お話してくださるのはとても嬉しいです。夫婦になるのですから」
自然と口から出た言葉にエルシー自身も驚いて、顔が赤くなる。
「……もちろん、アーネスト様がお嫌でなければ、ですが」
「嫌だったら、そもそも結婚を申し入れていない」
アーネストが答えたところで、馬車がゆっくりと停車した。
エルシーは目を見開いた。
(まさか……)
「あれが、我が領主館だ」
彼女の心の声が届いたのか、肯定の返答が馬車内に響く。エルシーが振り返ると、いつの間にか起きていたアーネストがシャツの襟を正してクラバットを身につけているところだった。続いて上衣にも素早く袖を通す。
「すまない、少し寝てしまったようだ」
「そんな、お気になさらないでください。私こそ子供みたいにはしゃいでしまって、申し訳ありません」
「いや、君が楽しんでくれていたのなら、俺も嬉しい。それに、誰かの前で眠るなんて初めてかもしれない。物心ついた頃から、隙を与える人間になるな、と祖父や父から言われ続けてきたせいかな」
アーネストは窓の外に視線をやった。彼はセルウィン公爵家の大事な跡取りで、当然その地位に相応しい人間になるべく育てられた。しかし、その教えと重圧が、かえって彼の本来持つ自由な感情表現に制限をかけてきたのかもしれない。そう思うからだろうか、エルシーの目には彼の横顔が少し寂し気に映った。
(……でも、私には少しずつ心を開いてくれてる、ってことかしら)
それが本当なら嬉しいが、ただの自惚れかもしれない。エルシーが何と声をかけていいかわからずにいると、アーネストから気遣わし気な声が発せられた。
「悪い、暗い話に聞こえたな」
「いえ……アーネスト様のことは何でも知りたいと思いますので、お話してくださるのはとても嬉しいです。夫婦になるのですから」
自然と口から出た言葉にエルシー自身も驚いて、顔が赤くなる。
「……もちろん、アーネスト様がお嫌でなければ、ですが」
「嫌だったら、そもそも結婚を申し入れていない」
アーネストが答えたところで、馬車がゆっくりと停車した。