【電子書籍化】騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍
 わかりやすいことに、その日を境にヘクターの家からの生活援助はパタリと止んだ。行きすぎた行動が原因だと侘びる娘を、母は優しく抱きしめたが、これを機にエルシーの中で何かが変わろうとしていた。

 周囲に頼ってはダメだ。自分が何とかしなければ。

 エルシーは奉公先を求めて、父の友人で葬儀にも参列してくれたバークレイ侯爵を思いきって訪ねた。話を聞いた侯爵はエルシーたちの現状に胸を痛め、王宮での働き口を紹介してくれた。下働きでも何でもありがたくやるつもりだったが、それはなんと王族つきの侍女の口だったのである。

 不思議なもので、没落貴族にも関わらず、名門ウェントワース侯爵家の名はまだ威光を失ってはいなかったようだ。運良く王太后の女官を補佐する使用人のひとりに採用され、真面目な働きぶりから、一年後には正式に王太后の侍女の末席に加えてもらうことができ、さらにその二年後--十七歳から王女グローリアの侍女へと配置転換され、今に至る。

行儀見習いの間に王宮に出入りする貴公子と出会い、結婚する他の令嬢とは違い、没落貴族のエルシーに求婚する者は皆無だった。それでも安定した収入があり、何とか家族が食べていけている。

 貴族としてあるべき生活とは程遠い現状ではあるが、エルシーは心底満足していた。彼女がこの先に見据えているものは結婚ではなく、自立だ。

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