鳥居の道標
参拝に来た一人のお兄さんが、チャリンと小銭を入れ二礼二拍手をし、目を閉じている。
『今年も家族や親戚、友達が、健康で楽しく幸せでいられますように』
不思議な声がこの休憩所に響いた。まるで迷子のお知らせのように、エコーを通した声だった。
その声が聞こえ終わると、お兄さんは一礼をして、帰って行く。
そのとき、休憩所でのんびりとしていた神様の一人が、お兄さんに手をかざした。
すると、急に強い風が吹いて、お兄さんの髪が激しく揺れる。
お兄さんには見えていないのだろうけれど、その風は少し緑色に光っていて、お兄さんに降りかかっていた。
『孫が今年受験なので、無事合格できますように』
次の人は、本格的な登山服を着たおばあちゃんだった。
その人に向けて、また別の神様が手をかざす。
再び吹き荒れる風は、青く光って見えた。
「あれが加護だ」
光を浴びる人達をぼんやりと眺めている私に、神様が言った。
光はその人に纏わり付き、共に下山していく。
「ご利益があるって聞いたけど、本当にあるんですね」
「ああそうだ。それはここだけに限らない。どこでもあるんだ」
「そっかあ。だから山の上って風が強いんですね」
ここに来なければわからなかった。
知らない世界だった。神様だって、いればいいかなくらいの感覚でしかなくて、実際にいるなんて思いもしなかった。