かりそめ夫婦のはずが、溺甘な新婚生活が始まりました
「それは悪かった、わざわざありがとう。……小毬、帰るぞ」

「う、うん」

 素早く私の手を握ると、将生は足早に歩き出した。彼に引かれながら、茫然と立ち尽くす野沢君を見て小さく頭を下げた。

 びっくりさせちゃったよね。私が結婚していることを知って、さらには将生まで現れちゃったんだから。

 改めてちゃんと説明しよう。野沢君なら誰かに口外するようなことはしないだろうし。

 それよりも心配なのは将生だ。さっきは納得してくれた感じだけれど、本当にそうだろうか。
 彼の背中を見ただけではわからない。でも一言も話さないし……。

 そうこう悩んでいる間に近くのパーキングに到着し、将生は私を助手席に乗せた。そして素早く支払いを済ませれると彼も運転席に乗り、なにも言わず車を発進させた。

 やっぱり怒っているのかもしれない。

 車に乗ってからも、一言も話さないもの。だったら早く誤解を解きたい。その思いで切り出した。

「野沢君とは、本当になんでもないからね?」

 私の声にハンドルを握る将生の手が反応した。

「同じ本社勤務の仲が良い同期のひとりだから。それと結婚を隠して旧姓で働いているのは、周りに誠司君たちとの関係を知られたくなかったし、コネ入社だと思われたくなかったからで……」
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