かりそめ夫婦のはずが、溺甘な新婚生活が始まりました
 やっぱり吉井のことは好きじゃない。だけどオロオロする小毬の手前、必死に笑顔を取り繕った。

「久しぶりだな、吉井。ちょうど昼食の準備が終わったところなんだ」

 そう言ってキッチンへ逃げ込み、一度気持ちをリセットする。

 さっきの小毬の様子からして、俺と吉井に仲良くしてほしいのだろう。小毬はそれが目的で吉井を家に招いたのかもしれない。

 スープをよそっていると、パタパタと小毬がキッチンに駆け込んできた。

 そして俺の近くで足を止めると、リビングにいる吉井に聞こえないように声を潜めた。

「ごめんね、将生。由良は悪気があってあんなこと言ったわけじゃないと思うの。昔の将生しか知らない由良は、想像できなかったんじゃないかな。将生が料理する姿が」

 必死にフォローする小毬に癒され、怒りなど簡単に消えていく。本当、俺ってつくづく単純な性格をしていると思う。

「大丈夫、わかってるから。……昔とは違うってこと、吉井にも知ってもらえるように頑張るよ」

「将生……」

 目を瞬かせる小毬にクスリと笑いながら、三人分のスープをトレーに乗せて渡した。

「これ運んでくれる?」

「あ、うん」

 どんなに努力したって過去は変えられない。だったら今と、そして未来を変えるしかないんだ。……とはいうものの。
< 132 / 265 >

この作品をシェア

pagetop