かりそめ夫婦のはずが、溺甘な新婚生活が始まりました
 ふたりを見失いように、チラチラと見ながら将生に電話をかけた。

 耳元で響く呼び出し音。すると前を歩く男性は足を止めると、スマホを耳にあてた。

『もしもし』

 う、そ……。

 私も足を止めた瞬間、振り返った男性。それはやはり将生だった。

『小毬?』

「あっ……」

 名前を呼ばれ声が漏れたものの、言葉が続かない。

『どうしたんだ? なにかあった?』

 そう言いながら将生は、一緒にいる女性に向かって『ごめん』とジェスチャーしている。

 その姿を見て今まで抱いたことのない、醜い感情に覆われる。

「ごめん、仕事中に……。今、会社?」

 あれほど言葉が出なかったのに、沸々と怒りが混み上がってきて、それなのに驚くほど冷静に聞いている自分がいた。

『いや、今は取引先の人との会食場所に向かっているところ』

「そ、っか……」

 会食に? じゃあ隣にいる女性は誰なの?

 聞きたいのに聞けない。……答えを聞くのが怖い。

『なにかあったのか?』

「ううん。……明日、どこに連れていってくれるのかなって気になって」

『あー……ごめん、まだ予約はしていなくて。明日までに決めておくよ』

「わかったよ」

 こんなこと、聞きたいわけじゃないのに……。
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