かりそめ夫婦のはずが、溺甘な新婚生活が始まりました
『ごめん、小毬。そろそろ行かないと。今夜も遅くなるから先に寝てていいから』

 遅くなるのは、これからその女性と過ごすから?

 卑屈になりながら「うん」と返事をすると、将生は嬉しそうに言った。

『でも、小毬から電話をかけてきてくれて嬉しかったよ。……明日、楽しみにしているから』

 目の前の現実を見なければ、明日楽しみにしていると言われ、単純に喜んでいたと思う。でも今は喜べないよ。将生の言葉、すべてが嘘に思えてしまう。

 通話が切れると、将生は女性に「行こう」と促して、再びふたり肩を並べた。

「あっ……!」

 気になって私も追いかける。

 こんなことをしたって、自分が傷つくだけじゃないの? そもそもどうしてショックを受けているんだろう。

 結婚前はこれが日常だった。将生は私以外の人と付き合っていたし、いつも冷たかったじゃない。それなのに、これほどズキズキと胸が痛むのはなぜだろう。

 その答えが知りたくて、改札口を抜けたあとも追いかけていく。
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