かりそめ夫婦のはずが、溺甘な新婚生活が始まりました
 たしかに将生は幼い頃から不器用で、自分の気持ちを相手に伝えるのが苦手なところがあった。わかっていたけれど、当時の私は気づけなくて当然だ。

「無理だったよ。だって私は将生に嫌われていると思っていたし、そんな将生を私も、その……苦手だったから」

 はっきりと『大嫌い』とは言えなかった。だって苦手と言っただけなのに、将生はすごく傷ついた顔をしているから。

 次第に顔を見ていられなくなり目線が下がっていく。だけどすぐに顎を掴まれ目が合うと、彼は悔しそうに唇を噛みしめた。

「小毬はこれまで、どんな気持ちで俺のキスを受け入れて、抱かれていたんだ?」

「それは……」

 言葉が続かない。だって正直に話したらまた将生は傷ついた顔をするでしょ?

 固く口を結ぶと、彼の切れ長の瞳が大きく揺れた。

「俺にこうして触れられるの、ずっと嫌だったのか?」

 嫌、だった? これまで何度も将生とキスをした。こうして触れ合うこともたくさんあった。でも嫌だと思ったことは一度もない。

 だって私に触れる将生はいつも優しくて、好かれていると勘違いしそうなほど甘かったから。

「……嫌じゃなかったよ」

 大嫌いな人のはずなのに、婚約している、結婚するんだからと理由をつけて拒めずにいたのは、きっと嫌じゃなかったからだ。

 素直な思いを口にすると、将生は再び私の頬を優しく包み込む。
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