かりそめ夫婦のはずが、溺甘な新婚生活が始まりました
 そして社長室の前で足を止めると、秋田さんが私の前に立った。

「小毬ちゃんは俺の後ろに隠れて」

「え、隠れるんですか?」

「うん。ぜひ小毬ちゃんに落ち込んでいる将生の姿を見てほしいからね」

 ニヤリと笑う秋田さんに、沢渡さんは呆れた様子。

「ではまず私から入りますね」

 そう言うと沢渡さんはノックしてドアを開けた。

「社長、失礼します」

「俺も失礼します」

 ドキドキしながら、沢渡さんに続いて中に入る秋田さんの後に続く。するとすぐに将生の力ない声が聞こえた。

「あれ、ふたり帰ったんじゃなかった?」

 バレないように将生の様子を窺うと、聞いていた通り元気がない。

「はい、一度会社を出たのですが、社長に大切なことを言い忘れまして……。それより社長、それはいったい?」

 怪訝そうに沢渡さんに聞かれ、将生はため息交じりに言った。

「これは小毬の結婚指輪。……洋太に問い詰められた時に言いましたよね? 俺に愛想尽かして家に置いて出ていったって」

 実に情けない声で言うと、将生はがっくりと肩を落とした。
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