かりそめ夫婦のはずが、溺甘な新婚生活が始まりました
「え……小毬? どうしてここに」

 私がいることに将生は大変驚いている。それを見て満足した秋田さんは、沢渡さんに声をかけた。

「浩美さん、お邪魔虫は退散しようか」

「そうですね。社長、では今度こそお先に失礼いたします」

 口早に言って出ていくふたりの背中を見送り、再び将生に視線を向けると目が合った。

 こうしてゆっくり顔を合わせるのは久しぶり。やっぱり将生、少し痩せた。

「将生……」

 ゆっくりと将生のほうへ歩み寄ると、彼は椅子から立ち上がった。そして私の前にくると足を止め、真っ直ぐ見つめてきた。

「小毬……俺……」

 神妙な面持ちで言葉を詰まらせる。そんな彼の手には、私の結婚指輪が握られたままだった。

「将生、指輪ごめんね」

「え、あっ……」

 そこで初めて握ったままなことに気づいたようだ。

「これ……またつけてくれるのか?」

 恐る恐る指輪を差し出し、不安げに聞いてきたものだから、私はすぐに指輪を受け取った。

「当たり前でしょ? ごめんね、毎日つけるように言われていたのに。本当、たまたまなの。寝坊しちゃって急いでシャワー浴びたら、外したまま忘れちゃって……」
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