かりそめ夫婦のはずが、溺甘な新婚生活が始まりました
 経営は軌道に乗り、オフィスも都心部から離れた雑居ビルの一室から、一等地にあるオフィスビルのワンフロアへ移転し、総従業員は三百名を超えた。

 ここまで会社を大きくすることができたのは、洋太の存在があってこそだ。

 だがこいつ、悪友だけあってなにかと俺に突っかかってくる。……とくに小毬にことになるとおもしろがって余計に。

「その顔だとお前……新婚早々離婚を切り出されたのか?」

「そんなことあるわけないだろ?」

 縁起でもないことを言わないでほしい。離婚だなんて、考えたくもない。
 一喝してメールの返信文を打っていく。

「じゃあその寝不足顔はなにが原因だ? どうせ小毬ちゃん絡みだろ?」

 部屋の中央にあるソファに座り、ニヤニヤしながら俺を見て言う洋太に苛立つ。
 だけどそれが、あながち間違っていないからなにも言い返せなくなる。

 昨夜、宣言通り狭いシングルベッドで小毬と一緒に寝たのが運の尽き。ひとりで引っ越しの片づけをさせてしまったからか、疲れてすぐにスヤスヤと気持ち良さそう寝た小毬とは違い、俺は一睡もできなかった。

 ずっと結婚をして小毬と同じベッドで寝ることが夢だった。だけど現実はそう甘くなかったようだ。
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