かりそめ夫婦のはずが、溺甘な新婚生活が始まりました
「副社長、どうしてこちらにいらっしゃるのですか? いつも言っていますよね、勤務中に私用で社長室にお越しになるのはお控えくださいと」

 美人で猫目の彼女に睨まれると、俺までつい怯みそうになる。だけど洋太は気にする素振りなど見せず、明るい声で言った。

「いや~、聞いてよ浩美さん。俺たちの頼れるボスが、奥さんのことではポンコツすぎてさ」

 フランクに『浩美さん』と呼ぶのは、彼女が洋太の恋人だからだ。

 仕事が忙しくなり、そろそろ秘書がほしいと思いはじめて求人を出したところ、面接に来てくれたのが沢渡さんだった。

 他社で秘書経験があり、持っているスキルも申し分ない。すぐに彼女の採用を決めた。

 期待以上の働きぶりで、今では彼女ナシでは俺の仕事は回らないと思う。

 そんな沢渡さんに洋太は一目惚れ。毎日のように好きだと言っていた洋太に、根負けしたようだ。

 だが洋太と交際すると決めた際、『仕事とプライベートはしっかり分けます』と彼女らしく報告してくれた。

 その際にさり気なく、洋太のどんなところを好いてくれたのか尋ねると、いつも淡々と仕事をこなす彼女は珍しく照れながら話してくれたんだ。

『明るく前向きで、一緒にいると心地いいんです。なによりご家族を大切にされている優しいところに惹かれました』と。
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