かりそめ夫婦のはずが、溺甘な新婚生活が始まりました
 洋太もまた『一目惚れだったけど、真面目で一生懸命なところはもちろん、笑った顔が可愛いところも、意外と涙脆いところも好きなんだ』と嬉しそうに話していた。相思相愛のふたりだと思う。

 洋太にとって沢渡さんは、かけがえのない存在なのだろう。しかしだからといって、俺のプライベートなことをバラされるのはたまったものじゃない。

「おい、洋太」

 腕を掴んで制止したものの、話を聞いた沢渡さんは「今は沢渡とお呼びください、副社長」と言いながら、興味深そうに俺を見た。

「しかし社長がポンコツというのには、興味があります。いったいなにがあったんですか? 仕事に支障が出ても困りますので、お話ください」

 真面目な顔でとんでもないことを言い出した沢渡さんに、ギョッとしてしまう。

 いや、たしかに小毬のことでずっと思い悩んでいたら、仕事に支障をきたすことになるかもしれないが……。

「ほら、前に話したでしょ? 奥さんとの学生時代のことを」

「ちょっと待て。洋太お前、沢渡さんになにを話しているんだ?」

 すかさず突っ込んだものの、洋太は気にせず続ける。

「将生は不器用だからさ、女性の立場から教えてあげてよ。男の人にどうされたら嬉しくて、好きになっちゃうか」

「そうですね……」

 洋太の冗談にも、真面目な沢渡さんは真剣に考えはじめた。だけど少しばかり気になる。

 同じ女性として、沢渡さんは男性にどんなことをされたら嬉しく思い、好きになるのかを。
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