かりそめ夫婦のはずが、溺甘な新婚生活が始まりました
「優しくされたら誰だって嬉しいと思います。冷たい態度は以ての外。言葉足らずで、しっかり気持ちを伝えてくれないのも嫌ですし、自分の気持ちを押しつける人も無理です」

 洋太同様、沢渡さんにも容赦なく言われ大きなダメージを受ける。真面目で信頼している相手だからこそ余計に。

 だがこれは、どう考えても洋太が事細かに俺と小毬のことを沢渡さんに話しているようだ。その証拠に洋太は必死に笑いをこらえている。

 沢渡さんに知られていたかと思うと情けなくなる中、彼女は力強い声で言った。

「しかし大切なのは、これからだと思います。……誠心誠意お気持ちを伝えられたら、奥様も社長の優しさや一途な想いに気づいてくださると思います」

「沢渡さん……」

 すると洋太も割って入ってきた。

「そうそう、浩美さんの言う通りだぞ? 大事なのはこれからだ! ちゃんと言葉にして伝えて、小毬ちゃんの気持ちを考えながら行動に移せば、お前の気持ちは伝わるよ! ……たぶん」

 最後に頼りないことを付け足し言うと、珍しく沢渡さんが噴き出した。すぐに彼女はハッとし、表情を取り繕ったが……沢渡さんはいつも、洋太のこういう何気ない言動に笑っているんだろうな。

 普段のふたりの様子が垣間見られ、微笑ましい気持ちになると同時に、俺も小毬とふたりのような関係になりたいという思いが強くなる。
< 38 / 265 >

この作品をシェア

pagetop