かりそめ夫婦のはずが、溺甘な新婚生活が始まりました
「……ありがとう」

 お礼を言って、パクパクとおかずやご飯を口に運んでいった。

「今日からだな、仕事」

「あ、うん」

 今日は四月一日。いよいよ社会人となる。

 道のりは長かった。結婚するのに就職することないと将生をはじめ、両親たちにも猛反対された。

 それでも私は社会に出て、働きたかった。将生のいない場所で新たな生活をスタートさせたかったんだ。

 最初は反対していた将生も私の気持ちを理解してくれて、一緒に両親たちを説得してくれた。
 最終的にお義父さんが社長、将生の六歳年上の兄、誠司(せいじ)が副社長を務める家電メーカーに就職することを許してもらった。

 ふたりと関係があることを隠して採用試験を受けた。それで落とされたら、おとなしく専業主婦になって将生を支えるよう両親に言われ必死だった。

 無事に内定をもらい就職が決まった時はどんなに嬉しかったか。今日から精いっぱい働くつもりだ。もちろん入籍はしたが、村瀬の姓を名乗ることなく旧姓のまま働くつもり。

 コネ入社だと言われたくないし、なにかと注目され、周囲の目を気にすることなく働きたかったから。
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