かりそめ夫婦のはずが、溺甘な新婚生活が始まりました
 なんて自分で言っておきながら、思い出すと恥ずかしくなる。『初めて好きになる人は、将生がいい』とか、けっこう大胆なことを言っちゃったよね? ……でもすべて正直な気持ち。

 将生の気持ちを知り、こうして彼の優しさに触れて。素直に初めて好きになる人は将生がいいと思ったの。

「えっと……プレゼント、本当にありがとう。ケーキ食べようか」

 なにも言わないから居たたまれなくなり、万年筆を袋の中に戻して踵を返した瞬間、背後から思いっきり抱きしめられた。それも苦しいほどきつく――。

「ま、将生……?」

 布越しに伝わるぬくもりに、胸の鼓動の速さが増していく。

 ドキドキしているのがバレそうで、やんわりと離れようとしたものの、さらに強い力で抱きしめられてしまった。

 まるで心臓が身体の外についているかのように、ばくばくとうるさい。

 絶対将生にも気づかれちゃっているよね? 抱きしめられてドキドキしていることに。

 だけど将生に抱きしめられても嫌じゃない。胸が苦しいけれど、彼のぬくもりが心地よくも感じる。

 どれくらいの時間、抱きしめられていただろうか。きっとほんの数十秒しか経っていなかったと思う。だけどとても長い時間に感じた時、彼は私の耳もとで囁いた。
< 76 / 265 >

この作品をシェア

pagetop