かりそめ夫婦のはずが、溺甘な新婚生活が始まりました
 それを証明するように、以前にも増してまったく話をしなくなった。学校ですれ違っても目すら合わない。

 言葉を交わすのは月に一度、お互いの両親と共に会う場でだけ。両親の前でだけは昔のように笑いかけてくれる。

 そうされるたびに、将生は仕方なく私との関係を続けているのだと伝わってきた。
 でもそれは私だって同じだ。生まれる前から将生との婚約は決まっていて、両親の関係上、私から婚約を解消したいと言える立場ではなかった。

 将生にも自由がなかったように、私にだって自由がなかった。それなのに一方的に嫌うなんてあんまりだ。
 次第に私の中で将生に対する思いが変化していった。

 嫌いなくせに、高校も同じところに進学させられた。それなのに私に対する態度は冷たくて、自分が惨めに思えて仕方がなかった。

 いつからか将生のことが嫌いになり、嫌いが大嫌いに変わったのは高校一年生の時。

 休日に出掛けようと誘われ、戸惑いながらもふたりで初めて外出した。

 だけどもちろん理由があり、どうやら彼は両親から私との仲を不安視され、「うまくいっていないのか? ふたりで出かけたりしないのか?」と聞かれたらしい。だから誘ったと聞かされた。

 この日は恋人たちがするように、手を繋いで歩き、帰り際にはキスをされた。「これは義務だから」と言われ――。

 この日を境に将生と度々会うようになった。その都度恋人らしいデートをして、帰り際には必ずキスをして。
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