かりそめ夫婦のはずが、溺甘な新婚生活が始まりました
 キス、される――。そう思って瞼を閉じたものの、なかなかその瞬間がこない。

 あ、あれ……?

 目を開けると、唇が触れてしまいそうな至近距離に将生の顔があった。

 びっくりして目を丸くさせた私を見て、意地悪な顔で言う。

「キスされると思った? 目を閉じたもんな」

「だって、それは……っ」

「でもキスはするよ。……ちょっとキスする前の小毬の顔が見たかっただけ。いつもそんな可愛い顔していたんだな」

 もう本当に勘弁してほしい。これ以上なにか言われたら、恥ずかしさで死ねる。

「もう起きる!」

 逃げるように起き上がったものの、すぐに腕を掴まれてベッドに戻された。

「まだだめ。……俺とキスしてから」

 ギシッと軋む音を立てて将生は私の上に覆い被さり、朝から甘くとろけるキスを何度も落とした。

 将生が満足して唇が離れた頃には、私は息も途絶え途絶えな状態だった。

「軽くなにか作ってくるから、小毬は息が整ったら顔を洗ってこい」

「んっ……」

 そう言って額にキスをし、将生は寝室から出ていった。

 今日は私が作ろうと思っていたのに。でも今はまだすぐに起き上がれそうにない。

 少し経つとやっと呼吸も整い、ゆっくりと起き上がる。着替えを済ませ、顔を洗いに洗面所へ向かう。
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