かりそめ夫婦のはずが、溺甘な新婚生活が始まりました
 彼の言うように義務だと頭は理解していても、心は追いつかなかった。将生はこの時だけは優しくて、昔のように楽しい時間を過ごせていたから。

 だけどそうなると当然学校の人に見つかる時があり、中学校では私たちの関係はバレなかったのに、高校ではバレてしまった。

 でも将生の態度は変わらなくて、学校では相変わらず冷たい。おかげで将生のファンの子から、陰で心ない言葉をたくさん言われた。「親の都合であんな子と婚約させられて、将生君が可哀想」とか、「不釣り合いだって自覚ないのかな?」とか、「将生君の婚約者とか図々しい」とか……。

 直接嫌がらせをされたことはなかったけれど、将生に振り回されっぱなしの人生に、ひとりで泣いたこともあった。それなのに将生は自分の都合で私に接してくる。そのたびに将生のことが大嫌いになっていったんだ。

 将生も私のことが大嫌いだと思う。だけどなぜかキスは優しかった。初めて身体を重ねた時も、ずっと――。

 恋人らしい行為をする時だけは、別人のようだった。だから私は将生のことを大嫌いだと思いながらも、心の底から嫌いになることはできていなかったのかもしれない。

 だから昨年のクリスマスイブの夜、彼から婚約指輪を渡されて「結婚しよう」とプロポーズされた時、断れなかったんだと思う。
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