Serious Finght ー本気の戦いー
第5章  弱さの笑顔。
※実樹編

昔、私はよく双子の子達と遊んでいた。
ふたりはいつも一緒で仲がとても良かった。しかし、ある事が原因でふたりの仲は引き離されてしまう。

【玲】「おい、実樹。行くぞ。」
玲央はそう言うと私の手を引っ張った。
【実】「あ、うん。」
私は玲央の後ろを歩く。
コンビニへ着くと玲央は一人でコンビニの中へと入って行った。
私は暇だったので信号機を眺めていた。
するとある思い出が浮かび上がった。

ここ、ふたりが交通事故にあったところだ……。

およそ10年前。
この日の天気は大雨。
実樹はずっと窓の外を眺めていた。いつもならふたりと一緒に遊んでいる時間だ。しかし今日は外にも出られない。
けれど、ふたりはこのどしゃ降りの中手を繋ぎながら走って行った。
【実】「あれ、なんでこんな雨の日に二人で外なんかに……。」
実樹はふたりの事が気になり、玄関へ向かった。
【母】「実樹、どうしたの?」
【実】「ママ、私外行くね。」
そう言い、玄関の扉を開けふたりが行った方向へ走って行く。
母に止められた事も知らずに無我夢中で走る。
実樹は頭で考えるよりも体が先に動いてしまうタイプなので、後先の事も考えず走った。

ふたりの事が気になっただけなのに、どうしてあんな事……。
予想外の出来事が私達を襲った。

ふたりが信号を渡っている時、トラックが突っ込んできた。
実樹はそれに気づいていた。しかし体が思うように動かない。その場で叫ぶ事しか出来なかった。
【実】「待って…!駄目だよ……ふたりとも!!」
遅かった。ふたりが振り向いた瞬間トラックはふたりのすぐ近くに来ており、ふたりは、一瞬ではねられた。
トラックは転倒し、ふたりは頭から血を流して横たわっていた。
【実】「や……あぁ……あぁ……(泣)」
実樹は声にならないほど泣き叫んだ。
周りの大人達はふたりに駆け寄り救急車を呼んだり、応急手当をしている。
なのに実樹はふたりを眺めるだけ。
自分の愚かさを思い知った。
自分を犠牲にするのが怖くて。死ぬのが怖くて。見て見ぬ振りををしてしまった自分が情けない。
1番悲しいのは、大切な友達を失う事だ。
なのにどうして動けなかった?どれだけ自分を責めたか……。
あの時、自分がふたりを助けていればきっとふたりは救われたかもしれないのに……。
実樹は自分の事が嫌いになった。
弱い自分を押し殺すように、強い自分でいようとそう心に決めた。

数日後。
ふたりの診断結果は記憶喪失。命に別状はないが昔の事は何もかも覚えていないらしい。
ふたりの両親はふたりを別々の部屋にした。理由は、ふたりの両親が離婚してしまったから。玲央はお父さんに、莉緒はお母さんに育ててもらう事になった。
きっとふたりはもっと一緒に居たかった筈だ。なのに…。

  



神様は運命を狂わせる。





【玲】「おーい、実樹。」
すると急に玲央の声が聞こえた。
ふと我にかえると目の前には玲央の顔があった。
【実】「あ、玲央。」
【玲】「お前、ぼーっし過ぎじゃね?」
玲央はコンビニ袋に入っていたイチゴミルクを私にくれた。
【実】「ごめん、ありがとう。」
私はイチゴミルクを受け取り、それを飲み始めた。
すると、向こう側から3人の女子がこちらに向かってくる。
あの3人はこの間転校してきた私達と同じ不良の子達だと、実樹は思った。
その真ん中に居るのは莉緒ちゃんだ。私は莉緒ちゃんと目を合わせないように、そっぽを向く。
3人は私達に気づいていたが声をかける事なく、飲食店へ入って行った。
玲央は少し顔を横に傾けた。
【実】「どうしたの?玲央。」
私は恐る恐る聞いてみる。
【玲】「いや、あいつどっかで見たことあるなぁと思って。」
【実】「あいつって?」
【玲】「浦田莉緒だよ。」
玲央は淡々とした口調で答えた。
もしかして、昔の事を思い出してきてるの?
そういえば、お医者さんがもしかしたら奇跡的に思い出すかもしれません。って言ってたような……。実樹は何も入ってない頭を振り絞る。
【玲】「なぁ、実樹。お前なんか知ってる?」
玲央に聞かれた事が心に刺さる。
ほんとは知ってるのに、言えないよ。
私がふたりを狂わせた張本人だもん。
【実】「実樹アホだから知らなーい。」
私は嘘の答えを吐いた。
【玲】「だよな。んー……。」
私は玲央が考える姿を見てさらに心をえぐられた。
本当は正直に話した方が良いのかな?ずっとそればかり考えてしまう。
正直になったところで、もしかしたら嫌われるかもしれない。そんなの嫌だよ……。
【実】「帰ろうよ。」
私は玲央と一緒に歩き出した。
過去の事を思い出してしまったら、こんな風に帰れなくなるのかな?
もう並んで帰れないのかな?
あぁ、全部悪い方へ行ってしまう。


ー赤チームー
莉緒達はある飲食店へ入りいつもの席へ座る。
【莉】「はぁ、……。」
莉緒は大きな溜め息をついた。
【彩】「どうした?でかい溜め息なんかついて。」
彩は心配そうに莉緒の方を向く。
【莉】「いや、……なんか、わけ分からん。」
莉緒はそう言うと頭を抱えた。
【彩】「いや、こっちもわけ分からんわ。」
彩は莉緒の頭を撫でる。琴はふたりの方を見てニヤニヤしている。
【莉】「あいつだよ……。菅谷玲央。あいつが私をモヤモヤさせる原因。」
そう言うと、外に居る玲央を指差した。
【琴】「菅谷玲央って、青火高校の男番長の人でしょ?莉緒、そんな人に恋したの?」
【莉】「は?」
琴は何かを勘違いしているようだ。
莉緒が言いたいのはそういうことじゃない。
【莉】「違う、そうじゃない。だいたい好きじゃねぇし。……私が言いたいのは、あいつとどっかで会った事あるって話。」
【彩】「へぇ、私達は会ったことないよ?」
彩の言う通りだ。
彼女達は一度も青火の男子不良達とケンカをした事がない。それに会った事もない。
なのにどうして莉緒は会った事があると言えるのだろうか。
彩は疑問に感じた。
【琴】「そう言えばさ、莉緒と菅谷くんって似てるよね!顔つきとか、目の色とか。」
【莉】「そうか?」
【琴】「うん。髪の色だって一緒だし。もしかして、生き別れの兄妹だったりしてー。」
琴は莉緒を突っついた。
【莉】「そんなわけ……。」
莉緒達はその後飲食店を後にした。

莉緒はふたりと分かれ、交通事故があった道路を渡った。
【莉】(この道路、見覚えあるんだけどな……。)
莉緒はそう思いながら自分の家へ帰って行った。
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