ずっとキミしか見えてない
 名前はさっき分かったし、顔はバッチリ覚えていたけど。

 そうでも言っておかないと、不自然な気がして。


「そっか」


 光雅くんは短くそう言うと、下を向いて本の整理を再開し始めた。

 ――あれ?

 下を向く前に、彼の表情が一瞬歪んだ気がした。

 不機嫌そうになったというか、ぶすっとしたというか。

 どうしたの?、と口を開きかけた私だったが。


「ただいまー。ゴミ袋めっちゃ重かったー」

「おっ。もうだいぶ整理できてんじゃん。あとちょっとだな!」


 書庫の扉が開き、芽衣と良悟くんがそんなことを言いながら入ってきたので、私は口を噤む。


「ゴミ捨てお疲れ様。あと少し、みんなでがんばろっか」


 顔を上げてふたりにそう言う光雅くんは、ほのかに微笑んでいた。

 仏頂面とは程遠いその面持ちに、「さっきのは気のせいか」と私は思ったのだった。
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