ずっとキミしか見えてない
 だけど私を見つめるその顔には、穏やかな微笑みが浮かんでいて。

 もちろんいまだに心臓はドキドキしているけれど、勉強についていけない不安でざわついていた心が、段々と落ち着いていくのを感じた。


「え⁉ いいの⁉」


 少しまえのめりになりながら言ってしまった。

 光雅くんは、入試の成績トップでこの学校に入ってきた。数学の基本的な問題なんて、きっとお手の物だろう。

 そんな光雅くんに教えてもらえるのなら安心――と思うと同時に、放課後、ふたりきりで教室に残っている光景を想像して、浮足立った気持ちにもなった。


「俺が教えられる範囲でよければだけど」

「お願いしたいです!」


 光雅くんが今日の授業に関することで教えられないところなんてないと思うけどなあ。

 きっともっとレベルの高い勉強をしているのだろうし。

 あ、でも私に教えてくれるとなると、光雅くんの貴重な放課後を奪うことになっちゃうんじゃない?


「ご、ごめん。私に教えたら、光雅くんが放課後が潰れちゃうんじゃないかな?」


 不安に思ったので尋ねたら、彼は目を細めて穏やかに笑った。
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