ずっとキミしか見えてない
 私もいつの間にか、彼の説明を一生懸命聞いて学ぶ姿勢へとなっていた。

 一通り教えてもらった後、教科書の問題を試しに解いてみたら、さっきまでちんぷんかんぷんに思っていた問いにも関わらず、嘘のようにあっさりと答えを導くことができたのだった。


「すごい……! ちゃんとできたー! できたよ、私!」


 思わず興奮して、大きな声を上げてしまう私。そんな私を、光雅くんは微笑ましそうに眺めた。


「すごく悩んでるように見えたから、もっとやばいのかと思ってた。これなら大丈夫だよ、紗良」


 いつの間にか光雅くんは、私のことを「紗良」と呼ぶようになった。

 芽衣が常に私を紗良、紗良、と呼んでいるからだろうか。

 低いけれど、どこか色気のある彼の声で紡がれる私の名前は、それだけで甘い言葉に聞こえてしまう。

 彼が「紗良」と言ってくれる度に、私は心がかき乱されてしまうのだった。

 もちろんそんなこと、顔に出さない様に必死に堪えているけれど。


「こ、光雅くんの教え方がうまいからだよ。本当にありがとう」
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