ずっとキミしか見えてない
「危ないっ!」


 少し離れたところから、突然そんな叫び声が聞こえてきたので、思わず硬直してしまう私。

 反射的に声のした方を向いた瞬間、白球が私の顔へと迫ってきている光景が目に飛び込んできた。

 景色がスローモーションに見えた。

 あまりにいきなりすぎて、身動きが取れない。

 ボールはどんどん、私の顔めがけて飛んできている。

 あ、ぶつかる――。

 混乱しながらも目を閉じて、衝撃を覚悟した私だったが。

 パシッという小気味よい音が聞こえてきた。

 それから数秒待っても、恐れていた痛みは感じない。

 私はおっかなびっくりまぶたを開けた。

 ――すると、そこには。


「危ないな、もう」


 片手で白い硬球を操りながら、眉をひそめてそう呟く男の子の姿があった。

 身長は、百六十センチに届かない私よりは、頭ふたつ分くらいは高そうで、百八十センチほどはあるだろう。

 艶やかで清潔感のある黒髪の隙間から覗く、切れ長でキリリとした瞳。

 色白の肌に、通った鼻筋と形のよい唇。

 息を呑むような、絶世の美少年だった。

 私の傍らにいた芽衣からも「やばい」という小さな呟きが聞こえてくる。

 そのかっこよさは、人気のアイドルやモデルの中に紛れさせたって、なんら遜色ないだろう。
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