ずっとキミしか見えてない
 テストと違って教科書や参考書を見ながらやっていいという話だったから、その分難易度が上がっているのかもしれない。

 もう30分近く取り組んでいるというのに、まだ五分の一も終わっていない。

 しかも、解けそうな問題を先に埋めてしまったから、これから取り掛かる問いには一問一問さらに時間がかかるんじゃないかと思う。

 全部終わるころには、明日になってるんじゃないかな……。

 そんな後ろ向きな考えに行き当たって、二度目の嘆息を私がした――その時だった。

 閉めていた教室の扉が開く音がした。誰だろう。

 忘れ物をしたクラスメイトかな?

 それとも、補習があることを思い出して戻ってきた良悟くんだろうか。

 というのが、私の予想だったのだが。


「紗良」


 私は目を疑った。

 どうしてあなたがここに?

 さっき、私に「じゃあな」って言って帰ったばっかりじゃない。

 教室に入ってきたのは、光雅くんだった。

 私が好きで好きでたまらない、彼だったのだ。
< 60 / 228 >

この作品をシェア

pagetop