kiss【BL】

 アイツは、すぐに俺の頭を撫でる。
 座ってるときはあんまり気にならないんだけど、立ったままだとあからさまに身長差が目立つ。
 だから、腹が立つ。
 でも…。
 くやしいけどやっぱり好きなんだ…、アイツが。

 俺が着替え終えた頃。
 アイツはまだ制服のまま、椅子に座ってテーブルに向かっていた。


 ――今なら…


 俺はそっと近づいて、声を掛ける。

「ねぇ」

 振り向きざまの隙をついて、唇を掠める。

「…倉本。……ッ!?」

 途端に表情が変わってアイツは唇を押さえた。

「…なにをしたんだ」

 ちょっとだけ声が慌ててる。

「ピリピリしてるでしょ? コレですよ、コレ」

 俺はポケットからリップクリームを取り出す。

「ちょっと腹が立ったから。仕返しっすよ。ほら、メントールって後からピリピリするじゃないっスか。驚きました?」

 やれやれといった感じで、アイツはノートを閉じた。
 何も言わないまま立ち上がって俺の前に来る。

「なんスか?」
「お前にはいつも、驚かされっぱなしだ――」

 語尾は、滅多に見せない柔らかな表情とキスで消えた。
 離れた後、アイツの手が俺の頭をくしゃくしゃと撫でる。
 文句を言おうと思って顔を上げたら、アイツが嬉しそうに笑っていた。


 ――この笑顔は俺しか知らない。


 そう思った途端、なんだかどうでも良くなってきて…。
 その手が気持ちよく感じられて…。
 
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