翡翠の御石
旅商人は、
「色々な色。
 様々な色が、濃淡ごとに... 順序立って、
 整列している光景に、その規則に。
 魅力を、興奮を、感じました」

と、生まれて初めて絵具屋に入った時の、驚きを語ってくれた。

「店の、棚という棚に。
 色とりどり、濃淡順に揃えられた、絵具の瓶が。
 ずらり、キラリと、きっちり並べられていて」

その陳列棚が、目に飛び込んで来た際の衝撃。
いや、自身の眼が、飛び込んで行った際の衝動を。

店へ入った瞬間、魅了され。
入り口で立ち尽くしてしまった事も。

自分が立ち尽くしていた事にすら、気付けなかった事も。

絵を初めて眼にしたり、描いたりした際の、心の動き出しを、
遥かに上回っていた事実も。

「この一瓶、一瓶の絵具達は、今まで何処で眠っていて。
 何処からやって来たのだろう?」
と。
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