極上御曹司の独占欲を煽ったら、授かり婚で溺愛されています
 背中や髪を優しく撫でられ、しばし彼のぬくもりに酔いしれていると、遠くからサイレンの音が聞こえてきて我に返る。

 そうだった、ここは自宅アパート前。それに商店街の一角にある。この時間は人通りが少ないとはいえ、いつ誰に見られるかわからない。

 村瀬さんも同じことを思ったのか、名残惜しそうに身体を離された。そして目が合うと恥ずかしくなり、お互い視線を逸らしてしまう。

「ごめん、道の真ん中で……」

「私のほうこそ。……あの、上がっていきますか?」

 何気なしに言った言葉に、村瀬さんは大きく目を見開いた後、忙しなく泳がせた。

「いや、その……さすがに返事をもらってすぐ、さくらちゃんの部屋に上がるわけには……」

「えっ?」

 言葉を濁すと村瀬さんは口元を手で覆い、チラッと私を見た。

「悪いけど俺、自分を抑える自信はないよ?」

 そこでやっと彼がなにを言いたいのか理解できて、みるみるうちに身体中の熱が顔に集中していく。

 私はただ、立ち話をさせてしまい申し訳なくて、部屋でゆっくりしていってもらえればと思って言ったまででっ……! 決して深い意味などなかった。でも……。
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