極上御曹司の独占欲を煽ったら、授かり婚で溺愛されています
 気まずそうにしている村瀬さんを見つめる。

 でも、もう少し一緒にいたい気持ちもあった。それに私も、もっと村瀬さんのぬくもりに触れたい。

 あぁ、本当に気持ちが届いたんだ。彼との未来が重なったんだって実感したい。

「今日は帰るよ。……また連絡する」

 その思いが強くなり、踵を返した彼のスーツの裾を咄嗟に掴んでしまった。

「え、さくらちゃん?」

 当然彼は、驚いている。……でも一番驚いているのは私。こんな大胆な行動に出るなんて信じられない。
 だけどそれ以上にそばにいてほしいと思ったの。

 しかし恥ずかしくて、素直な思いを口にすることができない。次第に視線が下がっていく中、村瀬さんは再び私と向き合った。

「引き留められたのは、さくらちゃんももっと俺と一緒にいたいと思ってくれていると勘違いするよ?」

 膝を折って私の顔を覗き込んできた村瀬さんの顔は、熱を帯びていて目が合うと瞳を大きく揺らした。

 村瀬さんは、もっと私と一緒にいたいと思ってくれているんだ。

 そう思うと嬉しくて、胸がキュンとなる。

「勘違い、してもいいです」

 バクバクと心臓を高鳴らせながら声を絞り出すと、村瀬さんは深いため息を漏らした。そして恨めしそうに私を見る。
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