極上御曹司の独占欲を煽ったら、授かり婚で溺愛されています
「父さんが今、進出を進めているシンガポールへ行ってくる」

「シンガポールに、ですか?」

「あぁ。……やっと父さんと母さんに、直接さくらのことを報告できるよ」

 彼のご両親は今、プロジェクト遂行のため、一年の間シンガポールで暮らしている。

 電話で済む話だけれど、こういうことは直接会って報告しなければ意味がないというのが村瀬さんの考え。

 だけど社長は毎日多忙のようで、なかなか私とのことを報告できずにいた。

「山浦さんに父さんのスケジュールを確認してもらったら、二週間後に数日間休みを取っているようだ。そこで父さんと母さんに報告してくるよ、結婚したい大切な女性がいると」

 〝大切な女性〟それが彼にとって自分なのだと思うと、嬉しくてたまらない。言葉にならなくて、ただ彼のぬくもりを身体中で感じる。

「それと、俺も少し向こうで仕事を手伝ってくる。父さん、休みも取れないほど忙しいようだから。現地スタッフとコミュニケーションも取りたいしな。……だけどそうなると、三ヵ月は帰ってこられないと思う」

「そう、ですか……」

 弁当屋に通ってくれている時から、何度も長期出張があった。店を畳むと決めた時も中国へ二ヵ月間行っていたし。

 それだけ村瀬さんの仕事は大変で、責任あるものだと重々承知している。しているけれど……このぬくもりのあたたかさを知ってしまった今は、三ヵ月も会えないと思うと寂しくてたまらない。
< 173 / 308 >

この作品をシェア

pagetop