極上御曹司の独占欲を煽ったら、授かり婚で溺愛されています
 どうして早乙女さんがここに? でも、どう見ても私を待っていたんだよね?

 バクバクと音を立てる心臓。早乙女さんが近づいてくるたびに、困惑するばかり。

 微動だにできずにいると、早乙女さんは私の目の前で足を止めた。

「猪狩さくらさん、ですよね?」

「……はい」

 威圧的な目で見られながら名前を呼ばれ返事をすると、彼女はただ一言「ついてきてください」とだけ言い、先に歩き出した。

「あっ……!」

 振り返ることなく歩を進める彼女の姿に、困惑しながらもついていくことしかできない。

 それに秘書課の早乙女さんが私に用があるとすれば、村瀬さんのこと以外考えられない。

 村瀬さんは私のことを伏せてくれたと言っていたけれど、なんらかのかたちでバレてしまった?

 ううん、いずれは周知されることだ。それが少し早まっただけ。だったら、ここで逃げるわけにはいかない。だって早乙女さんは、村瀬さんと幼少期からの付き合いなんだよね? 弟さんとも交流があると言っていた。

 彼と結婚することになったら、今後も付き合いのある人かもしれないのだから。

 そう自分を奮い立たせ、早乙女さんの後をついていく。すると彼女は真っ直ぐ一階下の重役室が立ち並ぶフロアへ向かい、専務室の前で足を止める。
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