極上御曹司の独占欲を煽ったら、授かり婚で溺愛されています
 えっ……もしかして専務が私を呼んだの?

 専務は村瀬さんの叔父でもある。それに、早乙女さんとの縁談話を持ちかけてきた人。

 そんな専務が私を呼んだのは、間違いなく村瀬さんとのことだよね?

 戸惑う私を余所に早乙女さんは数回ドアをノックすると、すぐに部屋の中から「はい」と返事が聞こえてきた。

 それを確認し、私のことなどいっさいお構いなしにドアを開けた。

「専務、猪狩さんをお連れしました」

 そう言うと鋭い目を向けられ、早く室内に入れと促される。

 どうしよう、怖くて足が震える。――でも、ここで怯むわけにはいかない。村瀬さんが専務に自分の気持ちを伝えたように、私もまた自分に正直でいればいい。彼を想う気持ちは誰にも負けたくない。

 それでも心臓はバクバクとうるさい。少しでも鎮めるように深呼吸して専務室に足を踏み入れた。

 部屋の中央には革張りのソファがあり、壁には無知な私でもわかるほど高価そうな絵画が飾られている。

 専務は部屋の奥の立派な椅子に腰かけていて、入ってきた私を品定めするような目で見た。

 専務は兄である温厚な社長とは違い、とにかく厳しいやり手だと聞いている。部下にはもちろん自分にも厳しく、些細なミスも許さない。

 そんな専務だからこそ、社長も村瀬さんも絶大的な信頼を寄せているのかもしれない。
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