極上御曹司の独占欲を煽ったら、授かり婚で溺愛されています
「そのためにも得意の厚焼き玉子で、村瀬さんの胃袋をがっちり掴みなさい。私とお父さんで引き留めておくから」

「えっ、あっ……!」

 一方的に言うと、お母さんはさっさと厨房から出ていった。ひとり取り残された私は途方に暮れる。

 どうしよう、いや、でも今さら作らないのも……。

 チラッと店頭を覗き見ると、宣言通りお母さんとお父さんが村瀬さんに話しかけて引き留めている。

 これは作らないとマズい雰囲気だ。……それにお母さんの言う通り、これはチャンスかも。

 きっとこの先、彼に手料理を食べてもらえる機会なんてないと思うから。

「……よし!」

 手をしっかり洗って、調理に取りかかる。

 昔、お父さんから初めて教わった料理が厚焼き玉子だった。幼い頃、店の厨房に立って料理を作るお父さんは、私にとって憧れの存在。

 そんなお父さんから料理を教えてもらえたことが嬉しくて、何度も練習をした。おかげで一番の得意料理になったんだ。

 味つけや入れる具材によって、レパートリーは無限大になる。

 だけど私が一番好きなのは、やっぱりだし巻き卵。シンプルだけど飽きない味。

 村瀬さんに食べてもらえるのかと思うと、緊張で手が震える。でもそれ以上に彼においしく食べてもらいたい気持ちが大きくて、心をこめて作っていく。
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