極上御曹司の独占欲を煽ったら、授かり婚で溺愛されています
「食堂の方々はきっと悪意などなく、単純に嬉しくて広めると思いますが、そういう良心な人間ばかりではありません。……社内であることないこと噂されたら、傷つくのは彼女ですから」

 自分の会社に勤める社員に対し、そういう目を向けなければいけないことがつらいが、実際に俺自身も重役に昇進するたびに、心ない噂を耳にした。

 誰かしらおもしろく思っていない人間がいる。自分が妬まれる立場にいることを重々承知しているし、しかたのないことだと諦めてもいる。

 しかし、その思いをさくらにはさせたくない。

「出産後のことは、またその時に考えようと話しています。俺は彼女が働きたいなら応援しますし、子育てに集中したいならできる限り協力するつもりです」

 復帰する時は、俺と結婚したことが周知されている状況だ。それをさくらも十分理解している。

 自分のせいで同僚に迷惑をかけることになるなら、一度家庭に入り、子育てが一段落したらまた違う場所で働きたいと言っていた。

 俺と結婚したことでさくらの自由を奪いたくないし、好きなことをしてほしい。

「お話をうかがっていると、おふたりの未来は幸せしか見えませんね」

 珍しくからかい口調で言う山浦さんに、居たたまれなくなる。でも、さくらと過ごす未来はそうであってほしいと願ってしまうよ。
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