極上御曹司の独占欲を煽ったら、授かり婚で溺愛されています
「あぁ、早乙女さんね。早乙女彩芽! 彼女がどうかしたの?」

 そう聞くと、弥生さんは待ってましたと言わんばかりに鼻息を荒くする。

「どうかしたもなにも、専務の秘書から外されるらしいよ」

 ――え、専務の秘書から外される?

 思わず手が止まり、弥生さんたちのほうを見てしまう。

「噂によると、この前のここでの一件の処分じゃないかって話さ。一部では、彼女の父親と専務が旧知の仲ということもあり、以前から異動させるべきだって声も上がっていたらしいからね。遅かれ早かれだったのかもしれないけど」

「あれだけの騒ぎを起こしたんだ。当然だよ。社内でもだいぶ噂が広まっているようだし」

 そうなんだよね。ここ最近、よく食堂内でも早乙女さんの話を耳にしている。

 彼はいっさい仕事の話を家でしないけれど、ここまで広まっていたら、村瀬さんの耳にも入っているだろう。でも私に直接クレームをつけていたことまでは聞いていないのかな? それならいいんだけれど……。

 噂を聞いて、村瀬さんはどう思ったのだろうか。

 複雑な思いを抱きながら開店準備を進め、定刻にオープンさせると、この日も多くの社員が詰めかけた。
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