極上御曹司の独占欲を煽ったら、授かり婚で溺愛されています
「すみません、一度席を外させてください。……彼女の気分が優れないようなので」

「えっ……?」

 私、そんなこと一言も言っていないのに。

 だけど誠司さんは「行こう」と言って私の手を引き、足早に会場を後にした。そして静かな廊下に出ると、心配そうに私の様子を窺う。

「大丈夫か? いきなりあれだけの人に囲まれたらびっくりするよな。少しここで休んでいこう」

「誠司さん……」

 気づかれちゃったんだ、うまく笑えていなかったことに。場違いな気がしてたまらなかったことに。

 彼の隣に立っても、恥ずかしくない振る舞いをしようと心がけていたのに……。来て早々退室しては、印象を悪くしただけではないだろうか。

「ごめんなさい」

 罪悪感でいっぱいになり、謝罪の言葉しか出てこない。だけど誠司さんは「謝ることない」と言う。

「誰だって最初は緊張するよ。俺だって初めてこういう場所に連れられてきた時は、挨拶もろくにできなかったから」

「え、誠司さんも?」

 信じられなくて聞き返すと、彼は大きく頷いた。
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