極上御曹司の独占欲を煽ったら、授かり婚で溺愛されています
「こら、笑うな」

「ごめんなさい」

 なんてやり取りをしながら、誠司さんは頬を摺り寄せた。

「うん、その笑顔が一番いい。会場に戻ってもその笑顔のままでいて」

「……はい」

 大丈夫、もう緊張も気後れもしない。彼が隣にいてくれたら私は強くなれる。

 その後は先ほどとは打って変わり、自然な笑顔で誠司さんとともに挨拶をすることができた。

「お父様は本日、いらっしゃらないんですね。お会いできず残念です」

「今はシンガポールだったかな? ムラセの急成長が眩しくてしかたがないよ」

 決まって聞かれることは、お義父さんのこと。たしか今日の発表会にはお義母さんと出席すると言っていたけれど、それもまだ秘密のようだ。だけどいったいなぜ?

 新製品発表会なら社長であるお義父さんは、出席するのが普通ではないのだろうか。それを伏せている理由はなに?

 もしかしてお義父さん、誰かに狙われているとか? だから昨夜、誠司さんはどんなことがあっても、私を守ると言ってくれたのだろうか。

 聞きたいけれど、誠司さんは信じてほしいと言っていた。きっとなにか意図があるんだよね。

 だったら私は彼を信じて、自分の役目を全うするだけだ。

 会場に着て一時間が過ぎると、やっと人が途切れた。
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